それは静寂の狭間。

卒業式の後、予定ないの？


と言われてもなあ。
あるわけないじゃないか。
普通に帰ろうと思ってた。
誘えったって、ねえ。
あんまり気乗りしない。
先約があるだろうし、私なんかと最後の日を浪費させるなんて出来ないわよ。
てめえは黙って家に帰ってクソして寝てりゃあいいんだよって頭の中で声がする。
騒ぐのも話すのも億劫。
静かにしてるからうるさくしないで、やることはちゃんとやるから放っておいて。
本当は卒業パーティにだって行きたかない。

友達と呼んでた人たちはそれぞれ違う友達と遊びに行くだろう。
ゼミの人たちにだって本来のグループがあるだろう。
すごく仲が良い人！いつでもべったり親友！
っていうのが苦手なんだ。やつら、トイレまでついてくるんだもの。
一人でいると楽だ。失敗しても自分が困るだけだし他人に迷惑を掛けない(最低限、だけど)で済む。
気をつかったり、お世辞言ったりしないで済む。
陰口に怯えないで済む。

親はそれをとても嫌な目で見ているけどね。
自分の子が陰気だったら、そりゃ嫌な気分になるだろう。
確かにチームプレーでやるのは苦手だ。仲良しごっこは空虚感に悩まされる。
旅行は一人で行きたいと断ったんだから、相手がいないわけじゃなかったんだよ。
気をつかって旅行に行くなんてやだもの。
今更必死になって相手を探すのもどうかと思う。親はそうしろって言うけど。

そもそも、なんで旅行に行くんだっけ？
一人なら焦る必要もないじゃん。社会人になったって行けるし、社会人の方が金持ちだし。
卒業だから？卒業するって特別なことじゃないよね。
区切りだけど。
つまらなかった大学生活が終わるだけだ。親の義務感からの強制的権利という呪縛から解放されるだけ。
後悔はしてないけど、満たされてはいない。足りない。足り無さ過ぎたんだ。
自分の馬鹿さ加減は死に値する。結局手元に残ったのは名前だけ。まあでも、何も残らないよりはいいけどさ。

親は言う。
まだ家にいなさいと。
親は言う。
友達と旅行に行きなさいと。
親は言う。
普通でいなさいと。
親は言う。
結婚出来ない奴は不完全で惨めだと。
何もかもが親のせいじゃない。
それを鵜呑みにして、そう振る舞ってきた自分の責任だ。
だから私はもう懲り懲りなの。
苛められないためのイイコチャンのふりも、完璧かつ理想的な応答も、自分の嗜好に目を背けるのも、理想をすげ代えられたのに気付かないふりをするのも、無理して誰かに媚びへつらうのもね。
ありのままの自分が誰からも受け容れられない奴だっているだろう。それが自分だったってだけで、不思議なことなんて何もないのだから。
でも取り繕うのも疲れた。


貯金は引っ越し資金にしちゃおうかなあ。
自分一人なら、誰かに迷惑かけないしね。
誰かといると一緒に泥を被らせなきゃいけなくなるからな。
１人でいるべきなんだ。